園舎のご紹介
2018年4月、こども園そらは沢山の方々に支えられ、新園舎で再スタートしました!
築40年の和風民家は大きな改修が必要でしたが、こども園そらの存続を願い、 ほとんどの改修工事を園の保護者や教師、
OBさん、お心寄せてくださったボランティアさん達のDIY作業で行いました。DIY作業の様子をご紹介します。
保育室の構想について
伊藤 壽浩
ひとは唯物論が規定するような外的な現れだけの存在ではなく、
神々と共にすごす天上世界にその故郷を持った存在なのだと私は思っています。
大きな世界と一体になったそんな存在が少しずつこの地上に降りて来るのです。
誰よりも、あかちゃんと一体になっているお母さんが、このことを一番肌で感じているでしょう。
園の先生たちは、お母さんのようなあたたかな愛情と、こどもたちをかつて天上で導いていた
神々のような高貴でやさしいまなざしで日々子供たちを包み込みます。
そんな園での暮らしのための地上的な覆いとはどのようなものであるべきなのか?
こうしたお仕事をさせて頂くたびに考えさせられます。
こどもたちがゆっくりと健やかに、この国の気候と社会の中へと入り込んでゆけるようにするには、どのようなしつらえが相応しいのかと。
今回、保育室として使わせていただくことになった伝統的な和風の座敷というものは、
そもそも日本文化が持つ高い質の空間性を保ちながら、外部へと開くということを可能にしています。
このことを可能にしているのは、和室というものが高度に完成された繊細で合理的な構成システムを
備えているからなのだと最近私は考えるようになりました。それは本来この国の粋人が愛でていた高貴な趣向です。
しかし、たとえそれが凛とした雰囲気をかもしだす何がしか特別なものとして、時折こどもたちにもぼんやりと感じられることがあったとしても、これから全身で世界と触れ合っていくこどもたちが過ごす空間としては、相応しいものであるようには思えません。
この世界に降り立ったこどもたちに、いきなり懐石料理を与えるようなものだと思うからです。
以前のそら(旧園舎)の保育室を見た時にも、全体を覆い包むような要素が欲しいとまず感じました。
今回厳しい予算の中でこどもたちの安全性を第一にと、先ず耐震補強工事を行いました。
誤解を恐れず申し上げますと、こどもたちのこころの安全性のために覆いは、本来それ以上に必要なものだと実は私は考えています。
最小の予算で可能な方法として、二間だった座敷を一体とし、その全体を穏やかな円天井で覆い、心情の広がりを柔らかく受け止めてくれるような彩色をほどこすことを提案しました。彩色はこれまで数々の子どものための空間で協働してきたオーストラリア在住の絵画療法士、石塚さくらさんが他のお仕事で来日する際にお願いしたいと思っています。この空間が、そらで行われている愛に満ちた保育を包み込むのに相応しい器となってくれることを、なによりもこれからこの場で過ごす子どもたちのためにと願って止みません。(2018.7)
【設計者】伊藤 壽浩 http://ito-arc.com/
京都工芸繊維大学卒、キリスト者共同体自由大学終了(ドイツ)
夢窓幼稚園、京田辺シュタイナー学校、神戸女子大学同窓会館など手掛ける
翻訳書に大地の四季(涼風書林)、リズミカルアインライブング、絵本 おやすみの後で(イザラ書房)
国際通貨同盟ーゲゼル・セレクション(アルテ)
京田辺シュタイナー学校宗教専科教員
天井彩色
石塚モリス小久良
運命的とも思える機会をいただき、こども園そらの改修工事に際して、
人智学建築を手がけられる伊藤壽浩さんの建物の天井に彩色をさせて頂く運びとなりました。
こども園そらの改修工事では、保護者と教員の方々の手で多くの行程が担われる、
本当の意味での手作りの空間が誕生しようとしています。
ありがたくもお盆休み明けに、そのような熱い思いのこもった現場に伺わせていただきました。
天井彩色で使用する素材はリボス社のウラと呼ばれる塗料。
リボス社は第一ゲーテアヌムの天井画のために作られた植物染料の研究所に由来する会社です。
同じリボス社のデュブロンを塗装した面に色を薄く薄く重ねていきます。
脚立にのぼり果てしなく広がるキャンバスに色彩を広げていく作業の始まりです。
薄く溶いた塗料を何度も重ねて色に深みを出していきます。
ルドルフ・シュタイナーは通常私たちが視覚と呼んでいる感覚を、色感覚と呼びました。
盲目の人が色彩を感じられるように、私たちは視覚を超えたところで色彩と出会っているのです。
今回のような技法で彩色が施されている天井は、時間をかけて眺めれば眺めるほど色がみえるようになっているのかも知れません。
純和風の建築の上に丸天井を持つそらの保育室には、洗練された空間である和風建築の上に漂う天上界という構想があります。
目覚めいていて意図的に設計された和風建築の空間と、まどろみ夢見るような色がたゆたう丸天井の空間との出会いです。
地上的に計算された意識的な要素と天上的な無意識の領域、この両極にある質が出会うことで生まれる空間に園児がやってきます。
天と地をつなぐのが人間存在です。この空間へとやってきた子どもは、無意識の中で天と地のつながりを体験するのです。
人智学では、人間が目で見て触ることのできる物質体という部分のみで構成されているのではなく、
通常の感覚では捉えきれない他の構成体(エーテル体、アストラル体、自我)が合わさって存在していると考えます。
成長するとともにこのすべての構成体が出会い浸透していきます。
子どもの無意識の中でその過程を支援できるようにと、私たち大人は周囲の環境を意識的に整えます。
今回その環境の一部がこうして形になりました。子どもは形や色に意識的に気づく必要はありません。
むしろ意識的に目覚めさせる代わりに、夢意識の中でまどろむ自由を与えてもらいたいと思います。
それぞれの子が必要なだけ時間をかけて、自分のペースで歩む権利を守ってあげられたらと思います。
そらの丸天井には虹の色彩が混沌としながら移ろいか輝きます。この色の世界と私たちの魂の部分は直接的に関わっています。
色は魂界と呼ばれる、星々の叡智が輝く世界に属します。
その世界をアストラル界と呼ぶことができ、私たちの中のアストラル体との関わりが深いことはお察しいただけると思います。
ですので、色は感情に深く働きかけます。普段から周囲に溢れている色なのですが、私たちが意識せずとも直接的にその影響を受けています。
ルドルフ・シュタイナーの色彩論では、この色の世界は光と闇の間に誕生します。
私たちが身近に知っている色彩論はリンゴが落ちたことで重力を発見したニュートンの理論で、
白い太陽光の中にすべての虹の色彩が含まれるという、数学的根拠を用いた物しきさいを理的な説明がなされます。
ニュートンは光にのみ焦点を当てて色彩を論じました。一方ルドルフ・シュタイナーの色彩論のベースにはゲーテの理論があります。
ゲーテは光と闇の両方に焦点を当て、光だけでは眩しくて見えない、闇だけでは暗くて見えない、
その双方の間に曇りの要素が生じる時に結果として色彩が誕生するという説明をしました。
自然科学者でもあったゲーテは終始自然から離れず、観察を通して色彩を論じました。
ルドルフ・シュタイナーはそのゲーテの理論を元に色彩の背後の霊的現象について述べました。
私たち人間に霊的な部分が備わっているように、人智学においてはすべての物質の背後には霊的現実が存在すると理解します。
それは色においても同じです。それぞれの色の背後で色の存在が働きかけを行っているのです。
地上では私たちは物質を通して霊的現実と出会います。
それゆえ自分の中の感覚を研ぎ澄ませていくことが大変重要になります。感覚は正しく使うことで発達します。
自然の中の色探しをすることは、色感覚に働きかけるひとつの有効な手段です。
そらの園舎では、天のたゆたう色彩が地上へと向けて下りてくる場所が季節のテーブルとして象徴され、この空間の軸となっています。
私たちが呼吸するように、地球も四季を通して呼吸しています。夏は外へと出ていき、冬は内へと入る時期です。
その地球の呼吸とともに生活を送ることで、天から降り注ぐ力を子どもは無意識のうちに体験します。
その1年の呼吸は1日の呼吸とも呼応します。
私たちは毎日の眠りの世界である天上界と目覚めた世界である地上界を行き来しているのです。
この1日の呼吸にも大人は意識的に取り組むことができます。毎夜眠りにつく前に自分の頭の中を整理します。
自分だけの力では答えの出ない質問をしてから眠りにつきます。目覚める時、目覚めの瞬間を意識的にむかえます。
まだ目が覚めきっていない状態にある時に、質問の答えを天から受け取ることができます。
ここで大切なのは、正しい質問をすること、そして答えを受け取るための感覚を研ぎ澄ますことです。
今回の天井彩色で改めてその重要性を感じたのが、芸術の位置づけです。
癒しをもたらす芸術は、個のレベルを超えた普遍的な表現である必要があります。
芸術に出会う各個人が、その普遍的な真実に触れ、その中に各自の個を見出すものでなくてはなりません。
多くの現代アートはいかに個人を表現するかというところを追求しているので、それとは方向性が異なることを理解していただけるかと思います。
子どもが集う空間のために、複数の人間の意識と熱と手が加えられている場に、今回このような関わりが持てたことを大変嬉しく思います。
これから先、ここを訪れる子ども達にこの空間が優しく手を伸べられるようにとの思いを込めて色を塗りました。
子どもだけでなく、大人も忘れかけていた大切な何かを思い出せる空間になると思います。
幼稚園という環境で過ごす年月は数年ですが、そこでの活動はその先も一生その人の中で息づいていきます。
ここで得た体験そして人とのつながりが、大人の中でも子どもの中でも生涯糧となって働きかけることと思います。
私が今回お手伝いできるのはここまでですが、これからも続くセルフビルドの行程を心より応援申し上げます。(2018.8)
会報VOL.29 宙より